天使に祝福され慈悲に満ちた表情でパイプ・オルガンを奏でる音楽の守護聖人「聖チェチーリア（※）」（"Naujok"筆）が、 ＫＰＭ陶板画特有の深く透き通るような何とも言えない色彩で、実に見事に描かれています。 ちなみに、ベルリン窯（もしくはベルリン窯の顧客）は、「聖チェチーリア」のモティーフをかなり好んでいたようで、 同モティーフの陶板画を繰り返し制作していますが、本作品程の、繊細極まりない筆使いや、 光と影のコントラストによる立体感を持つものは少なく（明暗のコントラストが強いため、掲載写真では、 「聖チェチーリア」のガウンの美しい紅色が背景の色と同化してほとんど見分けがつかない等、その雰囲気を 正確にお伝えできないので、とても残念です）、同モティーフどころか、数あるＫＰＭ陶板画の中でも、 間違い無く、頂点を極めた作品のひとつと言える傑作です。

なお、１９世紀のベルリン窯（ＫＰＭ）は、他の絵付け工房に対して無地の陶板を供給していた事が知られていますが、 当然、工房によって技術の優劣もかなり有り、したがって、それらの作品の間では、質的に大きな差が生じる事になりました（※）。 しかしながら、ブランドに弱い（？）日本市場において、ＫＰＭの陶板画というだけで、極めて稚拙な絵付けが施された作品が、 国際的には全く通用しない信じられない値段で売買されているケースをよく見かけますが、この作品は、 そういった二級や三級の作品とは一線を画する、非常にレベルの高い・・然るべき本物の・・ＫＰＭ陶板画です。

※陶板上に絵画を描くには、ひとつひとつの色に対して、窯に入れて焼き上がった後の（顔料の）色彩的な変化を 考慮しながら、何回にも分けて絵付け工程と焼き入れ工程を繰り返すという、気の遠くなるような煩雑で正確な 作業が必要となりますので、技術のちょっとした優劣によって、出来上がった作品に大きな差が生じてしまうという次第です。

参考価格 ： 本年３月に東京都内で開催された（会場を設営するタイプの）他社オークションに、 本作品と大差無いサイズの「聖チェチーリア」をモティーフにしたＫＰＭ陶板画 （その作品は、"Naujok"筆の絵画をベースにしたものではなく、天使は描かれていません）が出品された際には、 \694,500.〜\926,000.（買い手手数料込み）のエスティメイト価格（※）が設定されていました。

※写真は、焦点があまく、多少の歪みと写り込みが有り、実際の色と若干異なっています。